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高田米治郎が”日々”の出来事や読んだ本について感想文を書きます。


by l-cedar
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風化水脈

「風化水脈 新宿鮫Ⅷ 大沢在昌著 光文社文庫」を読んだ。

米治郎の推薦度 ☆☆☆

”新宿鮫”の”新宿”という舞台をあらためてどういうところだったかを
見直す作品である。そういう意味で原点に返った感じがした。

冒頭で第1作目で鮫島に自首してきた藤野組組員”真壁”が
刑期を終え出所して、女性を伴い、歩いているところに
鮫島は偶然出会う。その時の会話が良い。

「どうも」「その節はお世話になりました」
「いつだ」
「まだ一週間です」
「戻ったのか」
「他にいきようがありませんから」
「木津は死んだぞ」
「あちらで聞きました。鮫島さんですか?」
「俺は奴に殺されるところだった」
「しばらくのんびりさせてもらいます」
「それがいいだろう」
「失礼します」
「じゃあな」
この短い会話で、お互いのことを探り、思い、感じる。

鮫島は、高級車窃盗グループを追っていた。
そして、実行するグループは中国人マフィア、盗んだ車を保管して、
海外に輸出するのは、藤野組が絡んでいることを突き止める。
そして、その中国人マフィアのボスは、”真壁”が殺し損ねた相手だった。
服役している間に自分の”組”が抗争の対立相手と組む”シノギ”をして
大きな資金源になっていることを”真壁”は知る。そして、その
”シノギ”を牛耳る”真壁”の弟分の”矢崎”は、”真壁”にも”相手”にも
そのことを隠している。中国人マフィアは”真壁”が死んだと思っている。
一方、鮫島は、盗んだ車の”洗い場”(ナンバーを付け替えたり、
塗り替えたりする場所)をつかみ、その前にある駐車場の管理人で
ある新宿の生き字引的な老人”大江”と知り合う。そして、
その”洗い場”を探り、その裏にある古井戸から死体を発見する。
鑑識にまわされたその死体は、”永久死体”で腐乱せずに、
ワックスのようになる”屍蝋”と呼ばれるものだった。
そして、その死体は40年以上も前のヤクザだった。
悲しい話がその裏にあることをつかんでいく鮫島。

”大江”の話から”青線”があったころの昔の新宿が良くわかる。
やがて、ラストに近づくにつれ、”真壁”が生きていることを
知る中国人たち。”真壁”は覚悟を決めている。
鮫島は”真壁”の”妻”から”真壁”が組を抜けようとしていることを知る。

鮫島は”真壁”を救えるか?ハラハラドキドキで読み終わった。
老人”大江”の存在と話との絡み方もすごく良い。
最高の”終わり方”だと思った。
by l-cedar | 2007-12-31 08:13 | 感想文