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高田米治郎が”日々”の出来事や読んだ本について感想文を書きます。


by l-cedar
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鎖された海峡

鎖された海峡 逢坂 剛 著 講談社文庫」を読んだ。

米治郎の推薦度 ☆☆☆

逢坂剛さんのイベリアシリーズ、”暗い国境線”に続く第5弾が
文庫化された。待ち遠しかった。ハードカバーが刊行されて、
2年くらい経って、文庫化されるが、この2年、
何回、ハードカバーを買おうと思ったことか。
しかし、米治郎、文庫で読むことが基本。
そう、この次の”暗殺者の森”は、もうすでに
ハードカバーで刊行されている。

前作では、英米軍が地中海のどこから上陸してくるかの欺瞞を
裏から描いた作品だったが、この”鎖された海峡”は、
所謂、”Dデイ”、米英軍が大西洋側のどこから
ドイツへ攻め入るかが焦点になっている。
ドイツは、東部戦線で、ソ連から攻められ、
ドイツへと巻き返されて、ベルリンまで
攻め入られるのは、時間の問題になってきた。
そうなると、戦後、イギリスを除くヨーロッパは、
ソ連の思うように共産化されてしまう。
それを阻止するべく、米英がソ連とは反対側から
ベルリンへ攻め入らなければならない。
そのためのDデイだった。

主人公の北都昭平(陸軍参謀本部付情報将校、偽装の為、
日本国籍を捨て、ペルーとスペインの国籍を持つ)は、
前作で、恋人であり、敵方イギリスMI6(エムアイシックス)の
スパイ、ヴァージニアと彼女のアパートで
愛を交わしているときに、ドイツの秘密警察
ゲシュタポのハンセン兄弟に踏み込まれ、捕えられる。
ハンセン兄弟は、ヴァージニアに、英米軍が地中海の
どこから上陸してくるかを教えないと、北都の命はないと
脅す。さらに、驚くべきことに、ヴァージニアの上司の
フィービーは、ハンセン兄弟と通じており、ヴァージニアは
迷った挙句・・・、一方、ベルリンへ連れて行かた北都は、
聯盟通信ベルリン支局、尾形正義の機転により
命からがらスペインへ逃げてくる。ここまでが前作だった。

イタリアはムッソリーニが失脚して、ドイツは
さらに追い込まれていく。大西洋を越えて、
米英が上陸してくるのは、周知の事実と化するが、
果たしてどこから上陸してくるのか?

このシリーズ、米治郎が毎回楽しみにしているのは、
歴史上の史実を裏の出来事、表の出来事を
ストーリーに面白おかしく、まるでパズルのように
ちりばめて、後で、「へぇー」、「あれっ」、
「うわぁー」と思わせる逢坂剛さんの筆致力である。
このシリーズの感想を書く度に言っているが、
まるで、洋モノを読んでいるように思える。
例えば、北都の情報源であり、ドイツスパイの
総本山、国防軍情報部(通称:アプヴェア)
(※ウィキペディアでは、”アプヴェーア”となっているが、
本書では”アプヴェア”としているので、アプヴェアと表記する)の
カナリス長官(実在の人物)がしばしば、スペインを訪れ、
北都に情報を与えたりするが、彼は、実際にも
スペインへ良く行っていたらしい。
このカナリス長官がこのイベリアシリーズ全作に
登場(第1作の”イベリアの雷鳴”では、カナリスは
日本を訪れ、幼き頃の北都に会っている)し、物語に
深い味わいを与えている。
カナリス長官をリンクしているウィキペディアでは、
”第三帝国における不可解な人物の一人”としているが、
このイベリアシリーズを読む限り、決して不可解ではない。
そういえば、カナリス長官のウィキペディアを読んで、
びっくりしたが、国家保安本部(RSHA)の初代長官の
ラインハルト・ハイドリヒと、カナリス、家が隣同士で、
良く家族音楽会を開いたとの記述があったが、
このイベリアシリーズのどの作品か覚えていないが、
北都がカナリスに家族音楽会に招待され、そこで
ハイドリヒに会うシーンがあった。

今や、このシリーズのストーリーのもう一つの核となる
主人公、北都昭平とイギリススパイのヴァージニア・クレイトンの
愛の行方、それを邪魔するアメリカOSS(後のCIA)のスパイ、杉原ナオミ。
先日、読了したケン・フォレットの”巨人たちの落日”も第1次大戦下、
ドイツとイギリスの敵方同士の愛が、ストーリーの重要な核だったが、
逢坂剛さん、流石、ツボを心得ていらっしゃる。

米治郎の推薦度、前作は、”☆☆☆☆”で、今回は”☆☆☆”だが、
このシリーズ、決して万人受けするモノではないので、
全作で”☆☆☆☆”をつけてしまった反省を込めて、
”☆☆☆”にした。
by l-cedar | 2011-05-12 22:56 | 感想文