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高田米治郎が”日々”の出来事や読んだ本について感想文を書きます。


by l-cedar
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永遠のとなり

「永遠のとなり 白石 一文 著 文春文庫」
を読んだ。

米治郎の推薦度 ☆☆

第142回直木賞、佐々木譲さんともう一人の受賞者、
白石一文さんの作品だ。

先日、オール読物3月号で、受賞作品、”ほかならぬ人へ”を読んだ。
オール読物で読んだものをここの感想文で、書くのは失礼なので、
最近文庫本になった”永遠のとなり”を読んだ。

この前読んだ”真夏の島に咲く花は”と、違った意味で、
”生きる”ことを考えさせられる話だった。

主人公、青野精一郎は、博多の高校を卒業後、
早稲田大学政経学部を卒業して、昭和56年、
損保会社業界第5位の協同火災海上保険に入社する。
幼馴染で小学校からの同級生、親友の津田敦、一橋大学を優秀な成績で
卒業して、都銀トップの明信銀行に入行する。
”せいちゃん”、”あっちゃん”の中だ。
精一郎のいる協同火災は、業界1位大日本海上と合併して、
それまで、43歳で企画部門の部長に抜擢され、
順風満帆に来ていたサラリーマン生活に異変が生じ始める。
最初の異変は、合併前にMBAの資格を取るために、
渡米していた部下が、合併後に帰ってきて、元大日本の
上司から執拗ないじめを受け、精神に偏重を来たし、
自殺してしまったことだった。そして、その異変は、
精一郎にも起こり、”うつ病”にかかり、会社を辞め、
離婚して、博多へ戻り、病気の治療を始める。
一方、敦は、銀行を辞め、独立して、銀座で経営コンサルタントを
始め、良い顧客を得て、大成功するが、肺がんを患い、事務所を畳んで、
博多へ戻る。

そんなところから物語は始まる。”うつ病”の精一郎と、
”肺がん”の敦、二人を通して、生きていくということを、
作者は語っていく。"オール読物”に白石一文さんの
自伝エッセイが出ていたが、出版社と損保会社という
違いはあるが、精一郎が早稲田の政経を卒業、
”うつ病”になり、離婚して、博多に戻るところは、
作者と重複する。

精一郎が、病床の敦を見舞い、敦から言われたことに
対して言う言葉がすごく印象が残ったので引用する。

「人間は誰だって、自分が幸せになるだけで精一杯なんよ。
下手したら嫁さんや子供の幸せだって手を貸してやれんことも
あるしな。わしは誰にでも幸福になる権利があると思うとるよ。
やけど、それはな、自分は不幸でも構わんから他人が幸福に
なってくれたらそれでいいという考えはどう見ても不自然で
しかないという理由で、そういう権利が誰にでもあると
思うとるだけなんよ。人間の幸せなんて所詮その程度の
ちっちゃかもんでしかなかとよ。
わしは最近、大事なんは生きとるちゅうことだけで、
幸せなんてグリコのおまけみたいなもんやと思うとる。
あった方がよかけどないならないでも別に構わんとよ。
わしは自分がうつ病になってみて、ああ、人間は死にかけた
ときは自分で自分の身を守るしかないし、
他人のことなんかほんとにどうでもいいんや、それで全然構わん
のやなて心から思うたんよ。それはさ、自分が一番とかいうのとは
ちょっと違って、自分の命が脅かされるときだけは、人は
とことん自分勝手になっていいんやっていう、
ほっとする気分みたいやった。(後略)」

どこにでも、だれにでも、特にサラリーマンには
心の中に潜んでいる”うつ”と”そう”という精神の均衡。

友情とは、人生とは・・・。
そして、”永遠のとなり”とは・・・。
by l-cedar | 2010-03-19 22:07 | 感想文