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高田米治郎が”日々”の出来事や読んだ本について感想文を書きます。


by l-cedar
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制服捜査

「制服捜査 佐々木譲著 新潮文庫」を読んだ。

米治郎の推薦度 ☆

米治郎の推薦度、厳しくする。今までなら、佐々木譲さんの作品だから
文句なく、”☆☆☆”だ。
しかし、髭男爵ではないが、”状況が変わった”。
今までの、好きだ、嫌いだ、という感想では済まされない。
少なくとも、これを参考に本を決めている人が居るとわかったので、
今までも、不真面目なつもりは全くないが、真面目に、真摯に
感想を書いていく。

佐々木譲さん、「警官の血」で、警察小説の旗手の一人となってしまった。
これは、その「警官の血」の前に書いている作品だ。
佐々木さんの出身地、そして、現在、執筆活動を続けている地、
その地、北海道、この地が舞台となっている作品が佐々木作品では
ものすごく多い。それが、佐々木さんの北海道という土地に対する
所以、そして、こだわりが感じられる。

この作品も、北海道が舞台だ、しかも、志茂別町という十勝平野の
人口6,000人の架空の町が舞台だ。
道警の不祥事を受けた大異動により、この地の駐在警官に就いた
元札幌地区の各警察署でベテラン刑事だった川久保が主人公だ。
元刑事というスキルを生かし、制服の駐在所のおまわりさんが、
次々に事件を解決していく。
”逸脱”、”遺恨”、”割れガラス”、”感知器”、”仮装祭”の5つの短編だ。
その中の”逸脱”、新潮文庫の「警察小説大全集」に向けて書いた短編だった。
これ、米治郎もすでに読んでいたが、また、新たな気持ちで読めた。
佐々木さん、この”逸脱”をシリーズ化ということになって、困ったらしい。
北海道の片田舎を舞台にしたため、そんなに犯罪は起きない。
しかし、5つの短編は、北海道の片田舎、十勝平野の志茂別町が舞台だが、
起こる事件は、すべて今の日本を表している犯罪だ。
秋田の幼女失踪事件を思い出して欲しい。あのテレビに出ていた女、犯人。
秋田の片田舎であんなに残虐な事件が実際に起こる。
だから、この作品、現実的ですごく怖い。
特に、最後のこの中での一番の長編、”仮装祭”は怖い。

過去に起こった幼女失踪事件、それに繋がる幼女失踪事件が起こる。
二つの事件の接点とは?
北海道という中で、片田舎の町が抱える問題点、
そして、別荘地という有り得る設定、だからこそ起こった事件、
そして、どこの田舎の町でもある閉鎖性、その閉鎖性を守ろうとする住民。

他の警察小説、今までのありがちな警察小説に飽きた人にオススメだ。

警察小説の本流は、すべて東京、”警視庁”が舞台だ。
だから、「警官の血」は、警視庁が舞台だった。
「警官の血」は、佐々木さんが賞を狙うために書いた作品だ、というのを
ものすごく感じた作品だった。作品の隅々にその”力み”が感じられた。

だが、この「制服捜査」、本来の佐々木作品らしい
力みのない、しかし、佐々木さんの力は感じられる作品だ。

”読むものがない場合、読んでみても良い”作品だ。
by l-cedar | 2009-02-14 22:03 | 感想文