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高田米治郎が”日々”の出来事や読んだ本について感想文を書きます。


by l-cedar
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ワシントンハイツの旋風

「ワシントンハイツの旋風 山本一力著 講談社文庫」
を読んだ。

米治郎の推薦度 ☆☆

山本一力氏の初めての現代小説である。しかも自伝的
小説とのこと。米治郎が常々思っていたこと。
”なぜ、高知出身なのに世田谷工業高校卒なのか?”
”なぜ、世田谷工業高校卒でこんなに良い話が書けるのか?”
のなぞが解き明かされるのでは、と期待をこめて読んだ。

高知、城東中学3年生の一元謙吾は、母と妹の母子家庭
だった。母秀子は、検番(芸者取次ぎ所)と折り合いが悪くなり、
辞めて、東京へ出ると言い出す。友達と別れたくない謙吾は
そのまま、高知に残る。しかし、預けられた先にいづらくなり、
結局、中学を卒業する前に東京の母の元へ向かう。
母は、読売新聞の代々木上原専売所で、住み込みの賄い婦を
していた。そこへ転がり込み、翌日から新聞配達を始める。
代々木上原専売所の配達区域には、東京オリンピックの
選手村になる前の米軍”ワシントンハイツ”があった。

これを読んで、米治郎の山本一力士に対するなぞ、
”なぜ、高知出身なのに世田谷工業高校卒なのか?”
”なぜ、世田谷工業高校卒でこんなに良い話が書けるのか?”
がすべて解明されたと言ってよい。
”なぜ、高知出身なのに世田谷工業高校卒なのか?”は、
代々木上原の新聞専売所から通っていた中学で、
高校受験を進められ、たまたま受けた高校が世田谷工業高校だった。
”なぜ、世田谷工業高校卒でこんなに良い話が書けるのか?”は
世田谷工業高校卒業後、学校推薦のトランシーバー製造会社に
勤めたが、すぐに、そのとき付き合っていた女性が探した求人で、
旅行代理店”KNツーリスト”(近畿日本ツーリストと思われる)の
入社試験を受験して、合格、転職して入社する。
そこで、”ワシントンハイツ”で習った英語を生かして、
いろいろな体験をする。
その体験が小説に生かされているのではないか。

山本一力氏本来の”江戸もの”小説には、池波正太郎のような
セックスの描写は一切出てこなかったが、自伝的小説の
この本には、そういうきわどいシーンが随所に登場する。
何しろ、高校へ通いながら、新聞配達をやっているときに
16歳年上のピアノ教師の人妻と不倫関係を築いてからの
女性関係がすごい。「今日は中で出して」なんて
すごいセリフも登場する。女性は常に二股状態である。
もちろん、KNツーリストでも、男性社員の高嶺の花の才媛を
見事射止め、さらには他の女子社員とも付き合う。

大阪万博のときに、絶対的にホテル数が足りなかった。
それを、ラブホテルや公団住宅の空き部屋で補なう奇策や
アメリカへ添乗員で行った話など、そして、
よど号事件など旅行会社の社員が、当時どれだけ
ショックだったかなど、裏話も面白い。

解説で俳優の江守徹氏が書いているが、山本一力氏の
現代小説、これが最初で最後だなどと言わないでほしいと
言っているが、誠に同感である。
by l-cedar | 2008-06-01 11:07 | 感想文